当店の書籍担当者3名が8冊ずつ推薦した準新刊の中から、毎月8点選んでいる誠品選書。
2025年12月も新たな選書が揃いましたので、ご紹介いたします。
『研修生』
著者:多和田葉子 出版社:中央公論新社
1980年代、日本を出てドイツの書籍取次会社
で研修生になった主人公にはかつての著者の
姿が投影され、どのような道を経て作家を目
指すことになったかも窺える。独語と日本語
を行き来する中、「言語」が人の考え方にいか
に影響を及ぼすかについても言及される。
『無機的な恋人たち』
著者:濱野ちひろ 出版社:講談社
2019年、動物性愛者をテーマにした『聖なる
ズー』でデビューした著者の二作目である本
書のテーマは、ラブドールを愛する人たち。
セクシュアリティの多様性が叫ばれ、AIが急
速に進化する中、生き物ではない相手との恋
愛が当たり前となる時代の到来を予感させる。
『わたしのおとうさんのりゅう』
著者:伊藤比呂美 出版社:左右社
父はやくざ、母は芸者という家庭で育ち、児
童文学と出会った著者が、記憶・翻訳・言葉
とともに自身の記憶を紡いだエッセイ。児童
文学を通して描かれる家庭・戦争・ことばが、
読み手に伝わる様子が見えてくる。読書案内
としての側面も併せ持つ、貴重な一冊。
『Θ(シータ)の散歩』
著者:富田ララフネ 出版社:百万年書房
ベビーカーを押してあちこちさまよいながら
読書し、読んだ本のことを考える主人公。
大江健三郎、加藤典洋、聖書、カフカ、武
田百合子…。計り知れない他者について心
を巡らせ、内省することの価値として読書
の愉しさを取り戻す試み。
『言語化するための小説思考』
著者:小川哲 出版社:講談社
小説家による小説論が得てして晦渋な比喩
や文学の世界でのみ流通するタームに縁
どられ、門外漢の読む気を削ぐことから遠く
距離を置いた小説論。新書という形式で出
版された意図にも敬意を表したい。
『本当にやる!できる!必ずやる!』
著者:リンダ・オウラヴスドッティル 出版社:/ゆぎ書房
1975年10月24日、アイスランド女性の9割
が職場と家庭での仕事を放棄した記念日の
ことを、母が娘にユーモアを交えて語る絵
本。私たちの生活を大きく左右する社会や
政治のあり方について考え、行動すること
の重要性を改めて教えてくれる一冊。
『難聴を生きる 音から隔てられて』
著者:宿谷辰夫 宇田川芳江 出版社:岩波書店
ほとんど知られていない、難聴者や中途失聴
者の実態を医療・支援・当事者の視点から掘
り下げる一冊。聞こえの困難は当事者の問題
だけではなく、制度・環境・文化の課題でも
あることが理解できる。“見えない障害”を抱
える彼らにあるべき支援とは何かを問う。
『地上の楽園』
著者:月村了衛 出版社:中央公論新社
戦後、差別と貧困にあえぐ在日コリアンたち
を北朝鮮に帰還させる事業が1959年に始まる。
「地上の楽園」と喧伝されたこの計画は、何
万人もの死者を出した、国を挙げての棄民政
策だった。戦後最大のタブーと言われる史実
を正面から取り扱った、骨太な長編小説。
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台湾の誠品書店では、毎月「誠品選書」を選出しています。
1990年11月のスタート当時から、選書の基準を「すでに重版されたもの、版権のないもの、一時的に流行しただけのもの、通俗的な本は選ばない。学術的、専門的なもの、一般向けのものなどを問わず、難しいものである必要はないが、創作と出版に対する誠意があるものならジャンルを問わず推薦書籍とする」としました。
2019年、東京の日本橋にオープンした当店でも、「誠品選書」を通して読者に誠品の観点を伝えていきたいと考えています。日本の多種多様な出版物の中から、その月の代表的で、話題性、独創性があり、編集が優れている書籍をセレクトし、プレゼンテーションと投票によって、毎月8点の誠品選書を選出しています。